特集
島の木の物語
〈今号の表紙〉沖縄ではシンボルツリーとしてよく学校の校庭に植えられている榕樹(ガジュマル)。私の小学校の校歌にも歌われていて、子どもの頃は葉をクルクル丸めて潰し、葉笛にてよく遊んだ。気根を蔓のように長く伸ばす姿が、老若男女を問わず親しまれている。撮影:仲程長治
緑豊かな島に息づく沖縄の木々の力
去る2021年7月26日、「奄美大島・徳之島・やんばる・西表島」が世界自然遺産として正式に登録されました。
馴染みの深い「やんばる」の森の豊かさが世界的に認められたことは地元民として大変喜ばしく、誇るべきことだと感じています。そして同時に、この貴重な自然をいかにして守っていくかという責任も、島で暮らす者として考えていくべきことだと思っています。
やんばるに限らず、多種多様な木々が見られる沖縄では、生活の中でいつも緑を身近に感じます。糸満の自社農場にある大きなガジュマルは、夏場に涼しい木陰をつくり、休憩したり、昼寝をしたりする憩いの場になっています。
また、栄野比(えのび)の農場では周りにフクギの木を植えて防風林にしています。フクギの成長はそれほど早くはなく、何十年、何百年と家や集落を守り続けている立派なフクギ並木を見ると、人間よりずっと長い時間をかけて自らの役割を果たしていることを実感します。台風を耐え抜いた軒先のパパイヤからは、生命力の強さを感じます。私たちに元気と癒しを与えてくれる、島の木々の物語をお楽しみください。
代表取締役 名護 健
島の名木図鑑
亜熱帯海洋性気候の沖縄には他県では見られない樹木も多く、1年中豊かな緑を湛えています。ここでは「沖縄の名木百選」に選ばれた地域のシンボルツリ—から、代表的な樹木をご紹介します。
赤木(アカギ)
首里城をはじめ御嶽や拝所でよく見られる木で、樹齢300年ともいわれる「首里金城町の大アカギ」は国の天然記念物。「聖木」として人々の祈りの対象でもあります。
榕樹(ガジュマル)
大きく伸びた枝から木根を垂らす姿はまるで森の仙人のよう。名護の商店街の入り口に立つ樹齢300年の「ヒンプンガジュマル」は、名護の町のシンボルとして親しまれています。
「ヒンプン」とは屋敷の入り口に建てられた外からの目隠しと魔除けの石で、木の隣に建てられた石碑がヒンプンのように見えることから、いつしかこの名前で呼ばれるようになりました。国の特別天然記念物に指定されています。
赤榕(アコウ)
ガジュマルと同じく木根を伸ばすアコウは、沖縄の公園などでよく見られます。石垣島の真乙姥御嶽(まえつばうたき)にある日本最大級のアコウは木根が複雑に絡み合っており、神々しい木の下では、豊年祭などの祭祀が行われ、八重山の歴史に深く関連する神木として地域で崇められています。
先島蘇芳木(サキシマスオウノキ)
川沿いや湿地のような柔らかい土壌で、板のように平らな根「板根(ばんこん)」を四方に発達させます。その大きさは3メートルにも。世界自然遺産、西表島の古見の御嶽の中にある群落は国の天然記念物に指定されており、神々しさを感じさせます。
琉球松(リュウキュウマツ)
沖縄県の県木で、方言では「マーチ」と呼ばれ、昔から建材や薪炭材として活用されてきました。樹齢200年以上の「念頭平松(ねんとうひらまつ)」は見事な枝ぶりが特徴。久米島の「五枝の松」と共に、沖縄の名松として国の天然記念物に指定されています。
魅惑の花を咲かせる木
沖縄の街路樹や民家の軒先でよく見られる樹木には、実は、県外から移入されたものも多くあります。1975年、沖縄国際海洋博覧会の際に移植された鮮やかな花々を付ける樹木が、今も島を彩っています。
筏葛(ブーゲンビリア)
沖縄の南国らしさを引き立てる軒先のブーゲンビリアは南米原産の低木で、さまざまな品種がありますが、濃いピンク色のサンデリアナ種が沖縄の在来種だそう。花びらに見える部分は、実は苞(ほう)という葉が変化したものです。
黄胡蝶(オオゴチョウ)
マメ科の高木で、春から秋にかけてまるで蝶が舞うような花が群れて咲く様は艶やかです。オレンジ色の他に、黄色い花が咲く種もあります。
梯梧(デイゴ)
沖縄の県花で、デイゴが春先に見事に咲いた年は「台風の当たり年」とも言われます。インドが原産の木で、日本では沖縄県が北限とされています。
下り花(サガリバナ) 別名/沢藤(サワフジ)
夏の夜に香り高い花を咲かせる高木。もともとは湿地に自生していた木で、沖縄本島南部ではサワフジ、首里でキーフジ、北部ではモーカバナ、西表島ではジルガキなど、地域によって呼び名が違います。サガリバナの花言葉は「幸運が訪れる」ということもあり、一夜限りの初夏の風物詩として多くの人に親しまれています。
西表島には、田畑のイノシシ避けに植えられたサガリバナの群落が川沿いにあり、初夏には早朝に散った花が川面に浮いて流れていく様が見られます
島を守る木々
四方を海に囲まれた沖縄では、海からの風や台風の被害を防いだり、火事が広がるのを防ぐために屋敷の周囲に木を植えてきました。自然の摂理で島を守ってくれている木々をご紹介します。
照葉木(テリハボク)
街路樹や防風林として植栽されているテリハボク。島の方言ではヤラブと呼ばれ、建材としても活用されています。
テリハボクの実を絞った油は効能豊かな「タマヌオイル」になります
漂木(ヒルギ)
マングローブとは海水と真水が混じり合う汽水域に生息する植物の総称で、 沖縄では9種類のヒルギの仲間が生息しています。河口の広範囲に広がる ヒルギの林は台風から陸を守り、多様な生き物を育む生命のゆりかごです。
紋羽の木(モンパノキ)
沖縄の浜辺に自生するこんもりとした低木。ビロードような手触りをした薄緑色の葉は、かつて魚の毒消しに用いられていたそう。方言でハマスーキと呼ばれ、柔らかな幹をくりぬいてミーカガンという水中眼鏡が作られていました。
福木(フクギ)
真っ直ぐに育ち、頑丈な幹が高さ15メートルにもなる福木は、かつて屋敷囲いとしてどの地域でも植えられ、沖縄らしい風景を形成していました。昔ながらの集落の風情をそのまま残した「備瀬のフクギ並木」は、かつての島の暮らしが偲ばれる風景として、人気の観光スポットになっています。
木の皮から取れる染料は鮮やかな黄色。島の染織には欠かせません
暮らしの中の木々
島の人たちは身近にある島の木を使って家屋や船や楽器を作り、またそれぞれの木の特性を生かして、染織材料や食材としても利用してきました。島の木と人の暮らしの物語は今も確かに息づいています。