特集
おばぁたちが万寿と呼ぶ青パパイヤ。
「80(歳)はサラワラビ(童)90(歳)となって迎えに来たら100(歳)まで待てと追い返せ」
沖縄本島北部・大宜味村にある「長寿の村」宣言の碑にはこのような文字が刻まれています。80歳などまだまだ子どもというわけです。
結婚を機に、大宜味で暮らすようになった金城笑子さんが、2001年に「笑味の店」をオープンしたのは、周辺の家の "おばぁ"たちの畑で、ニガナやカンダバー、ナーベラー、フーチバー、ハンダマ……当時は誰にも注目されていなかった島野菜が、ひっそりとつくられ、ひっそりと食べられていたから。
畑や島野菜とともにある暮らしのリズム。老いてもなお、健やかに自分の暮らしを立てている人が多いのです。
「なんかさー、そういう畑のすみっこにあるような野菜を見ているとさ、工夫して料理してみたいという気もちにさせられたわけね」と笑子さんは話します。
なかでも青パパイヤはというと「大宜味に来てびっくりしたのはこれだわけ。どこのおうちにも1本か2本あって、おばぁたちはこんなにパパヤー食べるんだねーって。おばぁたちは万寿(まんじゅー)と呼ぶよ。私の世代はパパヤー」
沖縄では熟れる前の青いパパイヤを野菜のように食べます。具だくさんのおつゆや煮物、和え物など、いろんな料理にできて、例えば豚汁をつくる時に、大根の代わりに青パパイヤを入れる、というとイメージしやすいでしょうか。近い食材といえる大根やシブイ(冬瓜)、モーウィ(赤瓜)などが季節のものであるのに対し、青パパイヤは年中実をつけ、貧しい時代もおばぁたちをいつも助けてくれました。
沖縄で青パパイヤ料理といえば最もポピュラーなのがパパイヤイリチー(炒め煮)で、「笑味の店」のランチの一品にもあります。普通、名脇役な存在のパパイヤイリチーですが、笑子さんのそれは、「どれもおいしかったけど、パパイヤイリチーの奥深い味わいは何ゆえ!?」と味覚の記憶に刻まれるのです。
今回、料理の手順を見せてもらいながら、おいしさのワケに迫ってみました。
材料は驚くほどシンプルです。しりしり器(沖縄のスライサー)で細切りした青パパイヤ、醤油、鰹節、油、水。以上。
「醤油のほうが相性がいいわけ。塩を使うと、醤油の味が付かず、香りのない薄っぺらい味になるから」と、笑子さんは塩も入れません。
しりしりした青パパイヤを少し炒めたら、水を入れて煮ていきますが、この水の量が肝心です。収穫した場所によっても、日によっても、柔らかさが全く違うという青パパイヤ。炒めながら食べてみて、どのくらいの水分を入れればぴったり煮えるか判断します。
「煮えたのに水も余ってるとおいしくないわけ。だから毎日つくってても、味見は3回くらいするよ」
煮えたら、鍋肌から醤油をまわし入れて香りを出し、火を止めた後に鰹節を混ぜたらできあがりです。初めて食べた人がよく「切り干し大根だと思った!」と言いますが、干したわけでもないのにもともとそんなコクをもつ青パパイヤ。ニラやインゲン豆、ニンジン、ゴマなどを合わせてもおいしいですよ。
- 笑味の店
- 沖縄県国頭郡大宜味村字大兼久61
- TEL:0980-44-3220
- 営業時間:9~16時
(食事は11時30分~、ラストオーダー15時) - 定休日:火・水・木曜日
※営業時間内にお電話にてご予約を
恐竜が生きた時代から。
沖縄には18世紀頃に伝わったといわれるパパイヤですが、その起源は約2億年前、世界の大半が熱帯で、恐竜たちが生きた中生代ジュラ紀に遡ります。酵素や多糖類など生理活性物質をその内に蓄えているパパイヤは、猛烈な紫外線にも耐えられ、赤道付近で繁殖しました。
大航海時代(16世紀)、スペイン人の探検隊員が胃けいれんを起こした時、パパイヤを食べて回復したことから、種を自国に持ち帰り、世界各地に広めたそうです。
食べたものを消化・吸収・代謝するには「酵素」がなくてはなりません。足りなくなると、消化器に負担がかかったり、代謝不足、冷え性、むくみ、肥満といった不調が現れてしまいます。
パパイヤが "メディカルフルーツ"と呼ばれてきたゆえんは、そんな酵素の宝庫だからです。酵素を含む食べものの多くは、たんぱく質など特定の栄養を分解する酵素のみをもっていますが、パパイヤが秀でているのは、たんぱく質、糖質、脂質を分解する酵素をすべて備えている点です。さらに青パパイヤの酵素量は熟したパパイヤの10倍。
ポリフェノールやβ-クリプトキサンチン、ビタミンC、ギャバ、葉酸など、身体の機能を整えてくれる成分量も抜きん出ています。
試作中のすごい反応。
洋蘭の生産からスタートしている熱帯資源植物研究所では、1993年頃、ノニや島ニンジンなど沖縄の素材を組み合わせた発酵飲料をつくることができないかと試作を繰り返していました。
「そのなかで、バケツから溢れ出すようなすごい反応を見せてくれたのが青パパイヤでした。原料に青パパイヤが採用されることになり、『萬寿のしずく』が生まれました」と代表取締役の名護健は話します。
以来、畑での試行錯誤も重ね、現在、有機農法としては日本最大級の青パパイヤ農場で栽培を続けています。生産を担うのは代表の弟・名護幹人。
「中学生の頃から植物を育てるのが好きで、ホームセンターに行ったら観葉植物ばかり見ていて、友だちには『何やってんの、お前』ってちょっと引かれてました(笑)」
品種選びや水はけのいい土づくり、自家製のボカシ肥料、台風対策……栽培を安定させることは難しくとも「パパイヤは実が大きくなるのもわかりやすくて、おもしろいですよ。子どもの頃、おばぁがよく料理してくれた思い出のある青パパイヤ。そしてたくさんのお客様にお届けする『萬寿のしずく』の原料となる青パパイヤ。大事に育てていきます」