特集
沖縄の種子(たね)ものがたり
南国の植物たちのエネルギーがギュ ッと詰まっている種子。食べたり、飾ったり、加工したりすることで、島の暮らしを彩る存在でもあります。公園や浜辺で見つけることができる、 沖縄の種子の魅力を 「タネあかし」 してみましょう。

「月が浜」の愛称で知られる西表島のトゥドゥマリ浜
♪ 名も知らぬ 遠き島より流れ寄る 椰子の実一つ 〜 浜辺の種子といえば、島崎藤村の歌を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
沖縄の砂浜を歩くと、ヤシの実はもちろん、さまざまな植物の種子を見つけることができます。種子は、その植物の分布を広げるために芽吹くことが目的ですので、形状には虫や風などの力を使って遠くに運ばれていくための工夫があります。
近くに川がある海岸では特に多くの種子が見られ、その形状のほとんどが水に浮くようにできています。

①大きなヤシの実を発見。このまま芽吹いて根を下ろすものもあります
②満潮時の波打ち際のライン上に落ち葉や種子がたくさん集まります
③集めて並べてみるのもおすすめ
川を流れて波に乗り、沖の海流を漂って、長い旅をして遠く離れた浜辺に辿り着くものもあります。
沖縄最大の川、浦内川の河口に広がる西表島のトゥドゥマリ浜で、亜熱帯の森から流れ着いた多種多様な種子たちを集めてみました。

特集でご紹介している種子のサイズ感は、下記のリンクからご覧いただけます
※種子のサイズ一覧※

沖縄でよく見る種子や珍しい種子をご紹介!

大人の背丈ほどもある巨大な板根
亜熱帯の水辺に生える木。ウルトラマンのモデルになったと言われている種子は、硬い殻の中に空気が入っているので水に浮きます。板状の大きな根は昔は船の舵や建材に使われていました。

大きいものではサヤの長さが1mにもなります
直径が5〜6cmもある世界最大の豆として知られ、幸運を呼び込む種子として江戸時代には印籠の根付けにも使われていたそう。海藻に混じって浜に漂着することが「藻玉(モダマ)」という名の由来。

波風に耐えるタコ足状の根が特徴
ヒルギ(マングローブ)類の種子は「胎生種」と呼ばれ、親の木に付いたまま実が発芽する特殊な性質を持っています。成長して棒状になった種子は落下して川や海を流れ、根を下ろします。種子が水面を漂流する様から「漂木(ヒルギ)」という名が付きました。

汽水域に生えるマングローブ類
和名はハマザクロですが、種子の形がヤマネコ(マヤ)のおへそ(プシキ)に似ていることから沖縄では「マヤプシキ」と呼ばれています。

紫色の房状の花が冬〜春に咲きます
漢字で書くと「火焼葛豆(カショウクズマメ)」で、葛と同じツル性の植物です。細かい毛に覆われたゴツゴツとしたサヤの中に2つの豆が入っています。沖縄の石垣島、西表島、与那国島に自生しています。

白い小さな花を咲かせるヤラブ
宮古島や石垣島では「ヤラブ」と呼ばれ、防風林や街路樹として馴染みの深い木です。緑色の丸い実が道端によく落ちていますが、実の中に隠されたナッツのような種子が宝物。種子の中身を搾って抽出される黄金色の油分は「タマヌオイル」と呼ばれ、ハワイ、ポリネシアや東南アジアでは、昔から紫外線予防や傷の治癒など肌に良い万能オイルとしてよく知られています。

沖縄の海岸でよく見られるアダンの群落
パイナップルのような果実はヤドカリやコウモリの好物で、人が食べるのは葉の新芽の部分。乾燥した種子を穂先にする筆や葉を編んだ帽子、枝の繊維で作るバッグなど、工芸品の材料として使われています。

復元中の首里城の建材としても使われています
奄美・沖縄諸島のみに分布するオキナワウラジロガシの種子は、大きいもので直径2〜3㎝、重さ20gにもなる日本最大のどんぐりとして知られています。人気があるので持ち帰る人が多く、イノシシの好物でもあるため、年々数が減少しています。

サガリバナ科の常緑高木で、4つの突起を持つ直径15cmほどの大きな種子が「碁盤の脚」に似ていることから、この名が付きました。花は光沢のある白と赤紫色の雄しべ(花糸)が美しく、夜に花開くと甘い香りが辺り一面に漂います。

花弁が風車に似ているため「カジマヤー」とも呼ばれます
種子から抽出した染料は「くちなし黄色」として、琉球の伝統的な染織や食品の着色料、漢方薬として古くから利用されています。

種子が衣服にくっつくことから沖縄では「刺草(サシグサ)」と呼ばれています。外来種として雑草扱いされていますが、実は栄養価の高い薬草で健康食品やハチミツの蜜源として活用されています。

野山や畑の生垣などとして親しまれています
沖縄で「サンニン」と呼ばれるゲットウ。抗菌作用のある葉がよく使われますが、秋に鮮やかなオレンジ色に色づく種子はリースなどの装飾にも使われます。また、種子には豊富なポリフェノールが含まれており、焙煎したものがお茶や香辛料などに昔から利用されてきました。

葉が大きく海岸や公園に木陰をつくります
「コバテイシ」や「クヮディーサー」の呼び名で琉歌にも歌われている木。実の部分をコウモリが食べた後の種子を、海岸や公園などで見つけることができます。種子の固い殻の中にはアーモンドに似た仁があり、割って取り出すと食べられるので、子どもたちが夢中になって石で種子を割る風景に出会います。

クセのある種子を食す離島の知恵をご紹介します。
ソテツ味噌は奄美群島と粟国島(あぐにじま)に残る食文化で、神経毒が含まれているソテツの種子を手間ひまをかけて発酵させることで毒抜きをして食します。八重山料理に欠かせない香辛料であるピパーツ(ヒハツ、ピパーチなど呼び方は多様)はヒハツモドキの種子を粉末にした島のコショウ。今では沖縄料理として人気のあるジーマーミ豆腐も八重山発祥で、ジーマーミ(地豆)と呼ばれるピーナッツの絞り汁を芋葛で固めた一品。いずれも、台風などの有事があれば物流が途絶えてしまう、食糧難と隣り合わせの離島ならではの食の知恵が生かされています。

【ソテツ味噌】
熟したソテツの種子からデンプンを取り出して砕き、 時間をかけてアク抜きした後、玄米や大豆と合わ せて麹で発酵させた味噌。鉄分やミネラルが豊富で、戦後の食糧難の時代に島民の命を支えました。

【ジーマーミ豆腐】
豆腐といっても大豆ではなく、ピーナッツを使った もちもちとした食感の芋葛豆腐。八重山で生まれ、 海を渡って琉球王府のおもてなし料理になりまし た。甘辛いたれとショウガを乗せていただきます。

【ピパーツ】
エキゾチックな甘い香りと、黒胡椒のような辛味 が八重山そばに欠せない香辛料。民家の石垣に自生しており、熟した種子を蒸して天日干しし、粉にしていただきます。昔は各家庭で作っていたそうですが、今は瓶詰めの粉末やオイル漬け などが八重山のお土産品として人気です。

自然の草花や種子で作品をつくる草編み作家のアトリエを訪ねました。

①ジュズダマを身に付けて歩くと「素敵ね」と、よく声をかけられるという仲本愛子さん ②糸が通るジュズダマは天然のビーズ
子どもの頃から草花が大好きで、 趣味が高じて草編み作家になった という崎濱(さきはま)ちはるさん。彼女が影響を受けたという、お母様の仲本愛子さんは74歳。一緒に川辺で種子を集めてちはるさんが作ってくれたという昔懐かしいジュズダマのアクセサリーがお気に入りです。「沖縄ではシーシーダマと言って昔はお手玉の中に入れたりしてね。一つとして同じものがない自然の色と光沢が大好きで、身につけるとひんやり冷たいけれど、肌に心地いい。見ているだけで私自身が癒されています」と、愛子さん。

③今でも母娘で小さな草花や種子で遊ぶそう ④手際よくクバの葉を三つ編みにして種子を巻くちはるさん。自然素材でかわいいものを生み出す名人です

沖縄でキームーム(毛桃)と呼ばれる小ぶりな山桃の種子。「かわいくて捨てられないから」と、愛子さんが集めたもの
ちはるさんのアトリエには草木 や種子を装うアイデアがいっぱいです。集めた種子や花びらをケースや器に入れるだけでも素敵なインテリアになります。 「小さな存在たちへの愛しさと、それぞれの個性を感じて生かして使わせてもらう気持ちを大切にしています」とちはるさん。 いのちを蓄えて何十年、何百年 と時空を旅する種子には不思議な 力が宿っているのかもしれません。

⑤自然の草花を使った装飾の分野でも活躍する崎濱ちはるさん(写真:右) ⑥集めたアテモヤの種子を百均のケースに入れて飾っています。右端はツバキの種子の殻
ちはるさんの活動や作品は下記のリンクからご覧いただけます

