脈々WEB版 2026年冬号

特集

心と体がととのう沖縄の養生(ようじょう)

「養生」とは、心と体をととのえ、健やかに生きるための知恵と実践のこと。 沖縄の台所に息づく医食同源の暮らし方や、伝統文化を通して心身を鍛錬する術、 島の風土に沿った考え方など、おおらかで力強い沖縄の養生術をご紹介します。

「長寿の里」として知られる、沖縄本島北部(やんばる)、大宜味村(おおぎみそん)塩屋湾の風景

 

 沖縄では古くから、「食は命薬(ぬちぐすい/食べるものは薬)」という考え方が根付いています。琉球王府時代に、中国の食養生の影響を受けて編まれた薬膳書『御膳本草(ぎょぜんほんぞう)』にも食材や料理法による薬効について詳しく記されており、身の回りにあるクスイムン(薬になる食べ物)を用いた日々の食事を通して体を養生する、医食同源の知恵が自然と育まれてきました。
 また、空手や琉球舞踊といった伝統文化の中で培われた「型」の中にも、姿勢や呼吸法など心身を鍛錬する技術が息づいています。
 度重なる台風や戦禍など、抗うことのできない厳しい自然や歴史の流れに翻弄されながらも、前を向いて生きてきた島の人たちのしなやかな逞しさを、沖縄ならではの養生術の中からも感じることができます。

 

台所の知恵、食は命薬(ぬちぐすい)

台所は、家族の健康を育むお母さんの薬箱。沖縄では古くから「食は命薬(ぬちぐすい)」 といわれ、気候や体調を見ながら、旬の野菜や薬草を食卓に取り入れてきました。 沖縄料理の調理法にも、自然の恵みで体をととのえる知恵が詰まっています。

 

 

【ナーベラー】 (ヘチマ)

 利尿・解毒作用があり、体の熱を冷まして余分な水分を排出するのを助けるため、薬膳では咳が出る時やむくみを取りたい時に食します。沖縄では、輪切りにして味噌やだしで炒め煮するンブシーが夏の定番料理です。

 

 

【ゴーヤー】 (ニガウリ)

 ビタミンC、カリウムが豊富で、血糖値の調整や抗酸化作用も。島豆腐やツナ、卵などと炒めるチャンプルーが人気で、たんぱく質と油と一緒に食べることで、栄養の吸収率が高まります。

 

 

【ハンダマ】 (水前寺菜)

 紫色の葉に含まれるアントシアニンには抗酸化作用、老化防止の効能があり、沖縄では昔から血の薬や、不老長寿の薬草と呼ばれています。さっとゆがいた和え物やおひたし、サラダなどでたっぷり食べます。

 

 

【パパヤー】 (青パパイヤ)

 沖縄では「母乳が出る野菜」としてよく知られ、イリチーという炒め煮や煮物で食します。たんぱく質の消化を促し、胃腸の働きを助ける消化酵素パパインやベータカロテン、ビタミンC、食物繊維も豊富です。

 

 

【フーチバー】 (ヨモギ)

 血行促進や冷えの改善、胃腸を整える作用や解毒作用があります。沖縄では炊き込みご飯のジューシーや、お粥に入れて炊き込むボロボロジューシーでいただきます。

 

暮らしの中の養生術

自然と寄り添う暮らしの中で、できるだけ病院や薬に頼らずに、ちょっとした不調を癒して体をととのえてきた沖縄の女性たち。昔ながらのおばぁの知恵袋をご紹介します。

 

 

庭先で摘んだ野草を乾燥させた自家製のお茶

冷たいものは飲まない

 おばぁたちは夏の暑い日でも氷の入った冷たい飲み物はあまり口にしません。冷えは万病のもと、冷たいものを摂りすぎると胃腸が冷えて体調を崩しやすくなるからです。温かいお茶を少しずつ飲んで、のどと同時に、体を内側から潤すことを大切にしていました。

 

 

薬効豊かな薬草酒は薄めずに飲みます

泡盛は万能薬

 飲むだけでなく、薬としても家庭で重宝されてきた島の酒、泡盛。薬草などを各家庭で漬け込んだものを肩こりや冷え、胃の不調や発熱時などに少しずつ用いていました。また、泡盛には殺菌効果や血行を良くする働きもあるため、あせもや風邪気味の時には肌に塗る外用薬としても親しまれていたそうです。

 

 

クーブイリチーは細切り昆布の炒め煮

海藻をよく食べる

 沖縄の海で採れるもずくやアーサ(アオサ)などの海藻類は、味噌汁、天ぷら、酢の物などのメニューで毎日の食卓に並びます。また、沖縄以外では出汁として使う昆布も、クーブイリチーなどの料理でたっぷり食べるのが沖縄流。ミネラルや食物繊維が豊富な海の恵みが、県民の健康を支えています。

 

 

クルザーター(黒糖)

塩と黒糖で不調を癒す

 汗をよくかく沖縄では、昔から塩と黒糖をお茶請けにしたり持ち歩いたりして、熱中症や疲労回復に役立ててきました。塩はミネラル補給、黒糖はブドウ糖とビタミンB群が素早くエネルギーに変わり、体を元気にしてくれます。おやつ代わりに塩と黒糖を食べるのは、健康的な習慣です。

 

 

サトウキビ収穫の合間に欠かせないひと休み

十時茶、三時茶の習慣

 1日2回、午前10時と午後3時に、働く手を止めてみんなでお茶を楽しむこの習慣は、休息と交流のひとときです。おしゃべりを楽しみながら水分を補給して体と心を休めることで、仕事への英気も養われます。

 

 

台所に祀られたヒヌカン

家族の健康を見守る神様

 沖縄の家庭の台所には、家族の健康と安全を見守る「ヒヌカン(火の神)」が祀られています。毎日使うかまどやコンロの神様で、旧暦の1日と15日には手を合わせる風習も。母親はヒヌカンに感謝を伝え、家族の無事を祈ります。祈りと共にある台所は、女性たちの心のよりどころでもあるのです。

 

 

琉球舞踊に学ぶ心身の養生術

空手や琉球舞踊など、沖縄の伝統文化には心身を鍛錬する術が息づいています。 長年の稽古で磨かれた体幹と、舞台を踏むことで培われた精神力を併せ持つ琉球舞踊家の赤嶺啓子さんに、ご自身の養生のあり方を伺いました。

 

1954年那覇市生まれ。琉球舞踊道場「玉城流光乃会」二代目会主、沖縄県指定無形文化財「琉球歌劇」保持者。県内外で若手舞踊家の指導、育成に尽力。


古典舞踊「本花風(むとぅはなふう)」で、旅立つ愛しい人を見送る士族の女性を演じる赤嶺さん

 

 幼い頃から舞踊や沖縄芝居に親しみ、結婚、子育てを経て琉舞道場に再入門。舞台人として活躍してきた赤嶺啓子さん。60年以上に渡る稽古の積み重ねによって、琉球舞踊の型や所作は、すでに体の隅々にまで染み込んでいると言います。
 琉舞の特徴的な技法である「ガマクを入れる」とは、横腹あたりの筋肉に呼吸で力をため込み、腰と上半身を安定させる姿勢。ぶれない体幹が優雅な所作を生み、そこに役柄が乗ることで観る人の心に響くそう。 赤嶺さんが最も大切にしているのは、歌詞や振りの意味を理解して心で表現すること。舞台の上では自分を「空っぽ」にして、役にすべてを委ねるそうです。「演じきる楽しさが、歳を重ねて弟子たちに指導するようになって、ようやくわかるようになりました」と赤嶺さん。自分を無にする心のあり方を知ってから、「どんなことがあっても大丈夫」と心底思えるようになったとか。
 舞踊三昧の日々の合間に、ふと一人旅へ出かけることも赤嶺さんの養生の一つ。「舞踊の道に完成はありません。踊ることが生きがいであり、私の何よりの養生なんです」。

 

 

 

ウチナーグチにみる心の養生

ウチナーグチとは沖縄の方言のこと。南国らしい大らかさとたくましさ、そして、沖縄の人たちの「生きる哲学」を感じることができる言葉です。こうした島言葉は、先人たちが残してくれた、人生を導く心の養生と言えるでしょう。

 

「ゆいまーる」

沖縄に古くから伝わる助け合い、相互扶助の精神を指す言葉。農作業や家の建て替えなど、「困った時はおたがいさま」の精神で力を貸し合い、助け合うことで、つながりの輪を広げてきました。

 

「ぬちぐすい」

漢字で表すと「命の薬」。口にする食べ物だけでなく、人の優しさや美しい癒しの風景など、心と体を健やかにしてくれるすべてのものを指します。

 

「ちむぐくる」

心に宿る真心や思いやりのこと。ちむ(肝)とくくる(心)から成る言葉で、心の底から人に寄り添う深い思いやりの心を表す言葉です。

 

「なんくるないさ」

「まくとぅーそーけー なんくるないさ(正しいことをしていれば、自然と道は開ける=人智を尽くして天命を待つ)」という教えから生まれた言葉。苦難の中でも前を向く、大らかな心としなやかな生き方を象徴しています。

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