脈々WEB版 2019年夏号

教えてドクター!

認知症の予兆と予防について教えてください。

認知症による「もの忘れ」と加齢に伴う「ど忘れ」の違い

 

 認知症とは、それまで発達してきた知的能力が何らかの原因で低下し、物事を認識したり、記憶したり、判断したりする能力が衰えることで、日常生活に支障をきたしている状態です。
 よく勘違いされるのですが、認知症は一つの疾患名ではなく、認知機能が低下する疾患の総称で、病名ではありません。
 認知症を引き起こす原因の一つとされているのが「アルツハイマー病」で、認知症患者の約6割がこの病気に起因する「アルツハイマー型認知症」だと言われています。アルツハイマー病の原因ははっきりとはわかっていませんが、脳内にある海馬(かいば)という記憶を司る器官が萎縮し、何らかの障害を起こしていると考えられています。高齢者に多い病気ですが、近年では65歳以下の「若年性アルツハイマー型認知症」も確認されています。
 認知症の診察では、まず加齢に伴う「ど忘れ」と、認知症による「もの忘れ」の違いについてご説明し、問診を行います。認知症が疑われるか、そうでないかを区別するわかりやすい例を挙げると、今朝食べた「朝食のメニュー」を思い出せないのは「ど忘れ」ですが、「朝食を食べたという行為自体」を思い出せないのは「もの忘れ」です。
 ある体験の一部分、場所や人の名前等をうっかり「ど忘れ」してしまうことは誰にでもあることです。しかし、体験したこと自体をすっかり忘れてしまうような場合、頻度や程度にもよりますが、認知症が疑われます。

 

海馬と偏桃体のはたらき

月別・天候別にみる紫外線の照射量

「役割」を持って働くことが認知症の予防に

 現在、認知症に有効な治療法は発見されていません。抗認知症薬はありますが、症状の進行を緩やかに抑える消極的なものですし、脳トレーニングなどの民間情報にも今のところ医学的な根拠は確認できていません。
 ただ、多くの患者さんやご家族にふれてきた経験から私が感じていることは、「人間は死ぬまで働いていた方が良いだろう」ということです。
 社会的な仕事はもちろんですが、それに限らず、地域や家庭の中でも何らかの「役割」を持っている人は、年齢に関係なく心身ともにハツラツとされていることが多いように思います。長年続けてきた仕事をお辞めになった途端に認知症の症状が現れることもよくあります。
 年齢は単なる「ラベル」に過ぎません。「もう○歳だから…」と言わずに、今いる場所や立場の中で、自分にできる役割を担ってみたり、新しいことにも積極的にチャレンジしてみることをおすすめします。

 

認知症の予防のために

月別・天候別にみる紫外線の照射量

運動すること、歩くこと、仲間と楽しむことも大切

 認知症の予防方法として私がお伝えしていることは、とにかく「動くこと」です。ラジオ体操やウォーキングなどの有酸素運動は脳を活性化させます。
 また、誰にでも手軽にできる運動は「歩くこと」です。ご近所を散歩したり、買い物や通院も無理のない範囲で自分の足で歩いていくことが大切です。
 人間は歩けなくなると行動範囲や視野が狭くなり、筋力も衰えてきます。骨折などの怪我には十分に気をつけながら、無理なく体を動かす習慣を付けましょう。
 もう一つ、予防として有効なことは、仲間と一緒に楽しむことです。周囲の人間とのコミュニケーションが低下すると、認知症の症状は進む傾向があります。新しいコミュニティに入ることに対して、特に男性は抵抗があると思いますが、趣味のサークル活動や地域のボランティア活動などで他人の話を聞いたり、話したりするだけでも、脳は大いに刺激されます。

 

「ど忘れ」と「もの忘れ」の違い

月別・天候別にみる紫外線の照射量

お話を伺ったのは…

医療法人社団 輔仁会
嬉野が丘サマリヤ人病院
理事長
田崎 琢二(たざき たくじ)先生

精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、認知症臨床専門医、沖縄県介護老人保健施設協会副会長。日本大学医学部精神神経科学教室卒、医学博士。
平成2年から田崎病院に勤務。平成25年より嬉野が丘サマリヤ人病院へ。認知症疾患医療センターを沖縄県より受託し、センター長に就任。

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