脈々WEB版 2019年秋号

特集

島の土と暮らし

【特集】沖縄薬草パラダイス

〈今号の表紙〉 やんばると呼ばれる沖縄本島北部にあるポール・ロリマーさんの工房には、様々な地域から採取してきた「島の土」が宝石のように保管されています。小さな島に多種多様な土が存在していることは、沖縄の大きな魅力の一つです。撮影:仲程長治

 

土と共に営まれてきた命と心のストーリー。

 土を手の平にのせて眺めてみると、ふと、「この中にどれくらいのストーリーが詰まっているんだろう?」と考えます。
 それは、約4億年前に始まりました。地球のマグマが固まって岩石となり、長い時間をかけて砂と粘土になりました。そして、そこで生まれ育った植物が枯れて腐り、残った養分が蓄えられていくことで「土」は作られたそうです。
 私たちは日々、土に植物を植え、その成長を見守り、実りを頂くことで命をつないできました。そうした営みが4億年前から続く土の歴史の一端を担っているものだと考えると、大きな責任を背負っているように感じますし、すべてがつながっているような気がします。
 また、土は食べ物を育むだけでなく、国や地域ごとに様々な形で私たちの命や心とつながってきました。そして、土の営みはもちろん沖縄でも…。その一端を、今号の特集を通じて、皆さまに感じて頂けましたら幸いです。

代表取締役 名護 健代表取締役 名護 健


 

島の土をまとう

『大地染め』久米島紬

 

daichizome

久米島の土で染めた「大地染め」の糸。柔らかな薄紅色やベージュなど植物染料とはひと味違った風合いが魅力です。

 

島の自然と手仕事が生み出す美しい色

 国の重要無形文化財にも指定されている久米島紬。図案づくりや染色材料の採取、糸の染めから織りまで、全工程を1人の織子が手作業で行っている伝統工芸品です。
 その最大の特徴は、しなやかな光沢を放つ黒褐色ですが、あの独特の色調は「泥染め」によって生まれています。
 泥染めは、織る前の糸を植物の地下茎や樹皮の染液で浸け染めした後、特別な池から採取した泥土に浸ける「ドゥルクヮーシー(泥を食わせる)」という作業を行い、染織と乾燥を何十回も繰り返すことで黒褐色を深めていきます。
 最近では歴史ある泥染めに加えて、鉱物の多い久米島の様々な土を使った染めを「大地染め」と呼び、その温かな色合いが人気を集めています。

薬草は下ごしらえが大切。1枚1枚手でちぎり、丁寧に洗ってアクを流します。大地染めに使われている多彩な久米島の土

最後は氷水で芯までよく冷やし、シャキッと食べやすい食感にします。泥染めは最初に植物染料で糸を浸け染めします

沖縄の薬草が大好きという伊江島出身のしまぶくろさんと、奄美大島出身のまきこさん。高貴な雰囲気をまとう久米島紬の黒。泥染めは500年の歴史を誇ります

薬草は下ごしらえが大切。1枚1枚手でちぎり、丁寧に洗ってアクを流します。黒く染められた糸

最後は氷水で芯までよく冷やし、シャキッと食べやすい食感にします。泥粒子の細かい泥を焙染液にすることで、泥の中の鉄分が化学反応を起こして黒く染まるそうです

沖縄の薬草が大好きという伊江島出身のしまぶくろさんと、奄美大島出身のまきこさん。久米島紬事業組合の松元理事長。取材させて頂いた「久米島 紬の里」では、20代から80代までの幅広い層の織り手が伝統の技を受け継いでいます

 


 

島の食を彩る

『土の器』島の土にこだわる陶芸家

 

沖縄の四季彩美〜春の色〜

やんばると呼ばれる、自然豊かな沖縄本島北部産のチンヌク(里芋)を、やんばるの土でつくった器に乗せると、生命力に溢れた土の薫りを感じます。

 

島の食材によく似合う素朴で繊細な土の器

 沖縄本島北部に窯を構えるポール・ロリマーさんは、ニュージーランドから沖縄に移り住んで40年になる陶芸家。
 沖縄の土に魅せられ、島の土にこだわった作品をつくり続けています。作品に使う土は離島を含めて沖縄のあちこちから集めてきたもの。土から陶土をつくり、色づけに使う釉薬から窯づくりまで昔ながらの方法を文献などで調べて研究を重ねています。
 「沖縄の土は扱いが難しいけれど、味があります」とポールさん。サンゴ礁が隆起してできた沖縄の土には石灰が多く含まれていますが、「最初は知らなくて、割れたり剥がれたり大変でした(笑)」。野趣溢れるポールさんの器には、土が育てた島の食材がとてもよく似合います。

 

薬草は下ごしらえが大切。1枚1枚手でちぎり、丁寧に洗ってアクを流します。庭の畑の土も作品に使用

最後は氷水で芯までよく冷やし、シャキッと食べやすい食感にします。この手が自然の土からあらゆる形を生み出します

沖縄の薬草が大好きという伊江島出身のしまぶくろさんと、奄美大島出身のまきこさん。畑の土からつくったという器

薬草は下ごしらえが大切。1枚1枚手でちぎり、丁寧に洗ってアクを流します。工房の道具はどれも赤土まみれ

最後は氷水で芯までよく冷やし、シャキッと食べやすい食感にします。やんばるの土の器。サンゴをのせて焼いた跡が模様に

沖縄の薬草が大好きという伊江島出身のしまぶくろさんと、奄美大島出身のまきこさん。沖縄に住むきっかけになった石垣島の磁器粘土の器

薬草は下ごしらえが大切。1枚1枚手でちぎり、丁寧に洗ってアクを流します。色を生み出す釉薬も自然のものを

最後は氷水で芯までよく冷やし、シャキッと食べやすい食感にします。島の人よりも島に詳しいポールさん

沖縄の薬草が大好きという伊江島出身のしまぶくろさんと、奄美大島出身のまきこさん。やんばるの山の麓に開拓した工房。もちろん窯も手づくりです

 


 

島の風景をつくる

『沖縄の赤瓦』暮らしを守る土

 

沖縄の四季彩美〜夏の色〜

青い空の下に映える赤瓦屋根は「沖縄らしさ」そのもの。瓦の赤と漆喰の白が強い陽射しと雨風によって少しずつくすみ、風合いが増していく様子も風情があります。

 

島の風景に溶け込む色と風土に合った機能性

 沖縄らしい風景の象徴ともいえる赤瓦屋根の家。琉球王府時代から続く伝統の赤瓦も島の土でつくられています。
 伝統的な赤瓦づくりでは、クチャと呼ばれる泥土を成形し、しっかり乾燥させてから焼き上げますが、その際に土の中の鉄分が酸化することで色鮮やかな朱色が生まれます。
 また、赤瓦は吸水性に飛んでいるため、雨の水分を吸収し、晴れると水分を素早く蒸発させて室内の温度を下げてくれます。さらには、凸凹のある雄瓦と雌瓦を組み合わせて漆喰で止めるので、台風にも強く、真夏の日差しを浴びても劣化して割れることもありません。見た目の美しさだけでなく、高温多湿な亜熱帯気候の島にふさわしい、機能性を備えた瓦屋根と言えます。

 

束ねた薬草は風通しの良い場所に吊るして乾燥させます。赤瓦の原料はクチャと呼ばれる粘土質の土

フーチバーの匂いが大好きという大城さん。水とクチャを練って成形したばかりの黒い瓦

庭を回って摘んだ薬草。野菜嫌いの子どもも「自分で摘むと食べてくれる」とか。成形した瓦が白くなるまで数週間〜数ヵ月乾燥させてから焼き上げます

 

鉢植えの雲南百薬をつまんでお料理に。福木に囲まれた赤瓦の家並みは沖縄の原風景

庭先の草花を乾燥させて薬草茶にします。沖縄本島南部、与那原町にある老舗の瓦工場

 

鉢植えの雲南百薬をつまんでお料理に。山型の雄瓦と平型の雌瓦を組んで葺くため耐久性に優れています

庭先の草花を乾燥させて薬草茶にします。屋根の上のシーサーは、瓦葺きの職人が余った瓦と漆喰でつくったことがはじまりと言われています

 


 

島の土が育む

『大地の恵み』沖縄の畑

 

沖縄の四季彩美〜秋の色〜

糖度が通常の2倍以上ある沖縄本島最南端の糸満産ニンジンは、アルカリ性でミネラル分を多く含む島尻マージで育ちます。

 

4つの土質に合わせて多彩な作物が育ちます

 沖縄の土質は大きくわけて4種あります。最も多く分布する国頭(くにがみ)マージはいわゆる赤土。酸性で養分が少なく、雨が降ると流れやすいため野菜の栽培には向きませんが、沖縄の特産であるサトウキビやパインなどのフルーツ栽培に適しています。
 黒みがかった赤土で沖縄各地に分布する島尻(しまじり)マージは養分を多く含み水はけも良いため、イモやニンジンなど土の中で育つ作物の栽培に適しています。
 クチャとも呼ばれるジャーガルは粘土質でカルシウムを多く含み、キュウリやトマトの栽培に向いています。川沿いや海岸部で多く見られるカニクという土では、古くから水田として稲作や田芋の栽培が行われています。

 

薬草は下ごしらえが大切。1枚1枚手でちぎり、丁寧に洗ってアクを流します。赤土に染まった力強いやんばる大根

最後は氷水で芯までよく冷やし、シャキッと食べやすい食感にします。島の土に適したサトウキビは沖縄の主たる農産物

沖縄の薬草が大好きという伊江島出身のしまぶくろさんと、奄美大島出身のまきこさん。真っ赤な国頭マージで育つ石垣島のパイナップル

 

薬草は下ごしらえが大切。1枚1枚手でちぎり、丁寧に洗ってアクを流します。今でも稲作が盛んな西表島の田んぼ

最後は氷水で芯までよく冷やし、シャキッと食べやすい食感にします。国頭マージに植え付けられたサトウキビの苗

沖縄の薬草が大好きという伊江島出身のしまぶくろさんと、奄美大島出身のまきこさん。川沿いでよく見られるターンム(田芋)の畑

 

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島の土と暮らし

【特集】沖縄薬草パラダイス

〈今号の表紙〉 やんばると呼ばれる沖縄本島北部にあるポール・ロリマーさんの工房には、様々な地域から採取してきた「島の土」が宝石のように保管されています。小さな島に多種多様な土が存在していることは、沖縄の大きな魅力の一つです。撮影:仲程長治

 

土と共に営まれてきた命と心のストーリー。

 土を手の平にのせて眺めてみると、ふと、「この中にどれくらいのストーリーが詰まっているんだろう?」と考えます。
 それは、約4億年前に始まりました。地球のマグマが固まって岩石となり、長い時間をかけて砂と粘土になりました。そして、そこで生まれ育った植物が枯れて腐り、残った養分が蓄えられていくことで「土」は作られたそうです。
 私たちは日々、土に植物を植え、その成長を見守り、実りを頂くことで命をつないできました。そうした営みが4億年前から続く土の歴史の一端を担っているものだと考えると、大きな責任を背負っているように感じますし、すべてがつながっているような気がします。
 また、土は食べ物を育むだけでなく、国や地域ごとに様々な形で私たちの命や心とつながってきました。そして、土の営みはもちろん沖縄でも…。その一端を、今号の特集を通じて、皆さまに感じて頂けましたら幸いです。

代表取締役 名護 健代表取締役 名護 健

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