特集
沖縄チャンプルー大全
〈今号の表紙〉 沖縄県民の食卓に一番よく並ぶメニューがチャンプルー。昔は、その主役である野菜の顔ぶれで季節の移り変わりを感じていた。トーフ派、ゴーヤー派、ソーメン派と、好みはいろいろ分かれるが、僕はポーク入りのフーチャンプルーが大好きだ。撮影:仲程長治
沖縄県民のソウルフード チャンプルー
子どもの頃、夏の献立の定番は「ゴーヤーチャンプルー」でした。昔のゴーヤーは今より苦味が強く苦手でしたが、今では一番好きなチャンプルーです。シャキシャキ感のある炒め具合が好みで、僕の夏バテ防止の秘訣でもあるので、暑い日の昼にお弁当を買いに行くと、ついゴーヤーチャンプルー弁当に手が伸びてしまいます。
うちで食べていたチャンプルーは、ご近所からお裾分けでもらったゴーヤーや冷蔵庫にあるタマナー(キャベツ)やニンジンが入っていたりと、日によってさまざまな具材が使われていました。家庭や好みによって味付けや濃さを自由にアレンジできることも、チャンプルーの魅力のひとつです。
どこの家庭でも日常的に食べられていて、老若男女に愛されるメニューとして、町中の食堂やお弁当のおかず、居酒屋の定番メニューとしても人気が高いチャンプルー。もはや、単なる「炒め物」というひと言ではくくれない、沖縄県民のソウルフードと言えるでしょう。
今号の特集を見て、ぜひ皆さまのご自宅でも、個性豊かなチャンプルー作りにチャレンジしてみてください。
代表取締役 名護 健
チャンプルーは沖縄の家庭料理の代表格。野菜や豆腐、豚肉やツナ缶など、身近な食材を炒め合わせた手軽な惣菜料理です。全国的に有名なのは、夏野菜のゴーヤーを使ったゴーヤーチャンプルーですが、その他にもくるま麩を使ったフーチャンプルーや素麺が主役のソーメンチャンプルーなどさまざまな種類があります。
本土の豆腐よりも大きくて固い、沖縄の島豆腐が主役のチャンプルー。手でちぎった島豆腐を最初に焼き付けて、しっかり焦げ目を付けるのがポイント。具材はキャベツやもやし、ニラ、ニンジン、タマネギなどお好みで。
沖縄で常用されている大きなくるま麩を、卵液に浸けて焼くと、外は香ばしく、中はふんわりの食材に大変身。 戦後の貴重なたんぱく源だった麩を、たっぷりの野菜と美味しく食べれる先人の知恵が詰まったチャンプルー。
さっと茹でた固めの素麺を、缶詰のツナやサバ、ニラやネギなどの薬味野菜と炒めたチャンプルー。保存性の高い素麺は麩や缶詰と共に、台風の停電時に大活躍する食材として、家庭の台所に常備されています。
このページに掲載されているチャンプルーは、那覇市民の台所、牧志公設市場のすぐ近くにある老舗の琉球料理店「あかさたな」の人気メニュー。ゴーヤー、フー、トーフ、ソーメンの4種のチャンプルーを、ほぼ一気に、手際良く作ってくれた料理人の徳森さんいわく、「チャンプルーはとにかく“強火で手早く”が命」だそう。焼き付けた豆腐の香ばしさと、野菜のシャキシャキ感がたまらない、プロのチャンプルーを味わえます。
チャンプルー雑学ありんくりん
チャンプルーにまつわるちょっと役に立つ豆知識をあれこれ集めてみました。
戦後、沖縄の食文化を支えたポークランチョンミート入りのチャンプルー
チャンプルーの語源は何?
沖縄語の辞典(国立国語研究所編)によれば、チャンプルーとは「豆腐と野菜などの炒め物」を指す言葉です。
その語源には諸説があり、「混ぜる」という意味をもつインドネシア語・マレー語の 「チャンプール」に由来するという説、中国の豆腐を炒める料理「炒腐児(チャオフーアル)」に由来するという説、「ちゃんぽん」の沖縄方言だという説などがあります。
また、琉球王国時代から中国や日本、東南アジア諸国の文化を取り入れながら独自の文化を築き上げ、戦後はアメリカの文化も柔軟に取り入れてきた沖縄ならではの「ごちゃ混ぜ」な文化は、「チャンプルー文化」と呼ばれることがあります。
さまざまな食材の良いところを組み合わせて、各家庭、各店ごとに新しい味を生み出すチャンプルーは、沖縄らしい「ごちゃ混ぜ」感を楽しむ料理と言えるでしょう。
おかずに、お弁当に、お酒の肴に。冷蔵庫にある食材でさっと作れる手軽さがチャンプルーの最大の魅力なのです。
栄養学的に見たチャンプルー
チャンプルーを栄養学的な観点から見てみると、ビタミン豊富な野菜をたっぷり使い、良質な植物性たんぱく質である豆腐や麩、さらにスタミナ源となる肉や卵も加えられていて、大変バランスの良いメニューであると言えます。
野菜に含まれるビタミン類は、肉や豆腐などのたんぱく質と一緒に食べることで栄養効果がより高まります。
また、油で炒めることでニンジンなどに含まれるビタミンA(β-カロテン)の摂取量は2倍以上に。そして、チャンプルーはかつおぶしや豚だしなどの旨味成分を多用するため、塩などの調味料をかなり控えることができます。
脂質が高いので満腹感がある割にはカロリーと糖質量を抑えられることも特徴で、生活習慣病対策の低糖質メニューや減塩メニューとしても活用されています。
チャンプルーの名脇役はコレ!
チャンプルーの主役が島野菜ならば、名脇役の筆頭は島豆腐です。本土の豆腐が大豆をすりつぶした呉汁に火入れしてから絞って作るのに対し、沖縄の島豆腐は、呉汁を絞ってから火入れして作るため、ずっしり重く、たんぱく質の量も普通の木綿豆腐の約1.5倍もあります。チャンプルーでは、油で表面をしっかり焼いて、崩れないようにしてから炒めます。
もうひとつの脇役、豚肉は、三枚肉やスーチカー(塩漬けの豚肉)を使うのが昔ながらのチャンプルーですが、今、沖縄の家庭で最も消費されているのは、手軽で保存が利くポークランチョンミートやコンビーフハッシュです。肉以外にツナ缶やサバ缶も名脇役ですが、缶詰を使う場合には塩分が多くなりがちなので、調味料を控えるなど注意が必要です。
チャンプルーの兄弟料理
伝統的な沖縄料理としてのチャンプルーには、「豆腐の入った炒め物」という定義があります。似ているけれどちょっと違う、兄弟料理をご紹介。
イリチー
油で炒めた材料を、少なめの煮汁でさっと煮た料理がイリチー。細切りの昆布を炒め煮したクーブイリチーや、青パパイヤを使ったパパイヤイリチーなどがあり、よく味が染みて冷めても美味しいので、常備菜になります。
豆腐が入っていない青パパイヤの炒め煮、パパイヤイリチー
シンプルなソーメンタシヤーはおやつとして食べることも
タシヤー
ご飯や麺など、でんぷん質の食材を炒めた料理がタシヤー。豆腐が入らない素麺炒めはソーミンタシヤーが正式名称ですが、一般にはソーメンチャンプルーと呼ばれているなど、定義がやや曖昧なところも沖縄風。
ンブシー
イリチーと同じ炒め煮ですが、こちらは味噌味で煮付けているのが特徴。ナーベラー(ヘチマ)やシブイ(冬瓜)、カボチャなどを、豚肉や豆腐と一緒に炒めて煮込み、濃いめの味噌で仕上げた、ご飯が進む料理です。
豆腐とポークランチョンミート入りのナーベラーンブシー
おうちで作ろうチャンプルー
キャベツやもやしなど、基本的にどんな野菜でもOKのチャンプルー。自宅で美味しく作るコツを、沖縄のアンマー(お母さん)に教えていただきました。
苦味がやわらかいゴーヤーチャンプルー
ゴーヤーは縦2つに切ってスプーンでワタと種をこそぎ取って薄切りに。塩をかけてから水に浸す(★水にさらすと苦味が抜けます)
豆腐は手でちぎって水気を切り、油を熱した鍋でしっかり焼き目を付けてから取り出す(★木綿豆腐の場合は重しでしっかり水抜きを)
鍋に油を入れて強火で豚肉を炒め、火が通ったらゴーヤーを入れて炒め、塩で味を整える
豆腐を鍋に戻し、削り節を入れて軽く混ぜ、溶き卵を流し入れて余熱で火を通したらできあがり
ふわふわ麩のフーチャンプルー
野菜は食べやすい大きさに揃えて切り、麩は手で大きく割って水に浸して戻す。溶き卵にツナ缶とめんつゆを入れ、水気をしっかり絞った麩を入れる(★卵液に浸すのがポイント)
鍋に油を強火で熱し、卵液をしっかり吸った麩を入れて裏表をこんがり焼く。ふわっとしてきたらいったん取り出す
そのままの鍋に野菜を根菜から入れて炒め、かつおだしか削り節、少しの塩で味を整える。ラードで炒めると風味よくパリッと仕上がる
2の麩を鍋に戻してさっと混ぜ、仕上げにしょうゆをひと回ししたらできあがり