特集
涼風をまとう琉球ファッション
〈今号の表紙〉扇風機もクーラーもない時代、琉球の先人達は、風を通して体内の温度を調節する島の気候にマッチした快適な衣服を創り出した。自然から頂いた繊維と染織、その手技に頭の下がる思いです。時代が変化しても、伝統を繋ぐ方々がいることに感謝!撮影:仲程長治
暑い夏を涼しく過ごす沖縄の服
高温多湿な沖縄の夏を涼しく過ごすには、とにかく日差しを防いで風通しの良い服を着ることが大切です。
ひと昔前までは沖縄のビジネスシーンも「スーツにネクタイ」でしたが、2000年の沖縄サミットの頃からシャツタイプの「かりゆしウェア」が急速に普及しました。フォーマルでありながら涼しく過ごせるため、銀行など企業の制服としてよく用いられていますし、街中でも着ている人を年中見かけます。かりゆしウェアの色柄は南国の花や海の生き物など沖縄の自然と文化にちなんだモチーフなので、数人集まるとカラフルな集団になります。
私自身が普段かりゆしウェアを選ぶ際には、涼し気な素材や色合いを意識しています。左の写真は10年ほど前に特注で作ったかりゆしウェアで、2種類の生地を合わせてデザインしたこだわりの一着です。かりゆしウェアは大切に着ると長く愛用できますし、男女ともに様々なデザインが出ていますので、沖縄に限らず本土の方にもおすすめです。
今号の特集が暑い夏を涼しく過ごす、ご参考になればと思います。
代表取締役 名護 健
古くて新しい島の装い
琉球王国時代に生まれた沖縄独特の装い、琉装。亜熱帯気候の風土と文化に適した素材や デザインを現代風にアレンジした、夏にぴったりの涼やかな琉球ファッションをご紹介します。
男性着用のドゥジン(綿、18,000円)、ハカマをアレンジした那覇パカマ(麻、14,000円)/女性着用のドゥジン(麻、23,000円)。すべて「琉衣」の商品
風をはらみ風を通す琉球の衣服
日本に和服があるように、沖縄にも琉球王国時代に生まれた伝統の装いがあります。
沖縄の言葉で「ウチナースガイ」と呼ばれる琉装は、和服のように太帯で締めることのないゆったりとした作りと風を通すような着こなしで、高温多湿な気候の中での「涼しさ」を追求した衣服です。
現在は結婚式や祭り、舞台の衣装として見られることがほとんどですが、近ごろ、その素材やデザインの心地よさが「沖縄らしいファッションスタイル」として、再び注目を集めています。
中でも、琉球の王族や士族の礼装として用いられていたドゥジンや、八重山の伝統衣装であるスディナはさらりと羽織るだけの手軽さと軽さが人気です。ドゥジン作家で長年の愛用者でもある砂川恵子さんは「とにかく涼しくて楽ちん。難しい着付けも必要なく洋服にもよく合います」とその魅力を語ります。
ドゥジンに限らず、昔の島の衣服には吸湿性や放湿性に優れた正絹や、芭蕉や苧麻などの植物から生まれた素材が用いられており、布そのものが呼吸をしているかのようにやさしく風をはらんでいました。
また、現代の沖縄のフォーマルウェアである「かりゆしウェア」でも、紅型や絣などの伝統柄や南国らしいモチーフで見た目にも涼やかなデザインを施したり、通気性を高めた新素材を用いるなど、暑い夏を快適に、おしゃれに過ごすためのファッションがいつの時代にも求められています。
表着のドゥジンは、軽く羽織ったり紐でゆるく結んで着用します。素材や色によって印象が変わり、王族や士族は紅型などの華やかなドゥジンを重ね着して礼装としていました。女性は下にヒダのある巻きスカートのようなカカンをはいていました。
琉衣-RYUI-
手作りのドジン、パカマは展示会を開いて販売しています。
webサイト=http://ryui-okinawa.com/
右:琉装をモダンにアレンジしたオリジナルブランド「琉衣」を主宰するドゥジン作家の砂川恵子さん
男性着用は南風原絣のドゥジン(絹、69,000円)と那覇パカマ(麻14,000円)女性着用は絣模様の古布ドゥジン(絹、参考商品)と首里パカマ(藍染綿、12,000円)。すべて「琉衣」の商品
代表的な素材と柄
沖縄のフォーマル、かりゆしウェア
沖縄発のクールビズウェアとして、今や全国で定着している「かりゆしウェア」は、2000年の「九州・沖縄サミット」を機に命名され、広く普及しました。沖縄県内ではハワイのアロハシャツと同じく、礼装としてビジネスや冠婚葬祭の場でも着用されています。その定義は「沖縄で縫製された沖縄らしさを表現したもの」。定番の半袖シャツだけでなくポロシャツや女性向けのものなど、そのバリエーションは多様化しています。
植物素材のおしゃれ小物
手元や足元のおしゃれも沖縄らしく涼し気に。身近にある植物を使った丁寧な手しごとから生み出された小物たちは、使うほどに味わいが増す、ぬくもりを感じるファッションアイテムです。
左上から時計回りに/月桃のかご10,000円、トウツルモドキのかご38,500円、クバうちわ(20cm)4,200円、アダン葉ぞうり(26cm)5,000円
自然から生まれて自然にかえる手わざ
月桃やクバ、アダンなど身の回りにある植物を使って手作りされた編みかごやぞうり、帽子など、昔ながらの沖縄の民具はおしゃれを彩るアイテムにもなります。
モノが少なかった時代に生み出されたこうした品々には先人たちの知恵と技が詰まっていて、実際に使ってみると植物素材ならではの心地よさとともに、軽くて丈夫、すぐに乾くなど、その優れた機能性にも驚かされます。
たとえば、アダン葉のぞうりは履くと自然と汗を吸い、歩くほど足の形に馴染んでいきます。草編みのかごは、使うほどに味のある風合いになり、祖母の代から三代に渡って使う人もいるそうです。ほころびても自分で修繕でき、最後は自然にかえせることも大きな魅力の一つです。
もともとは農作業などの合間に家庭で作られていたものなので専門の作り手がいるわけでなく、モノが溢れる現代は手わざの継承が難しくなっていますが、大切にしたい島の宝物の一つです。
琉球の髪結い(からじゆい)スタイル
沖縄独特の髪の結い方は「ウチナーカンプー」とも呼ばれ、琉球時代は男女ともに長い髪をかんざしでまとめていました。夏に涼しいアレンジ琉球髪の結い方をご紹介します。
上/琉球時代の髪型「かたかしら」を今風にアレンジしたまとめ髪
左/頭のてっぺんにまとめた伝統的な髪結。左右の膨らみの高さや大きさで身分を表していました。当時は自髪で結い上げていましたが、現在は入髪(イリガン)という付け髪を乗せるのが一般的です
流れるようなラインが美しいまとめ髪
琉球の髪型といえば、頭のてっぺんに大きくまとめた結い方が印象的です。女性は貴族や庶民など身分や職業によって結い方に型があり、成人男性は頭頂部に小さくまとめた「かたかしら」と呼ばれる髪型が一般的でした。まとめ髪にジーファーと呼ばれるかんざしを挿した姿からは南国らしい風流を感じます。
琉球舞踊や組踊など芸能の世界では、今でも琉球の文化として伝統的な髪結いが忠実に継承されています。そのエッセンスを活かして、今風にアレンジした琉球髪のスタイルを楽しんでみてください。