脈々WEB版 2022年春夏号

特集

島のうた

脈々2022春夏号表紙

琉球松の向こうの穏やかな海に島々が浮かぶ羽地内海。民謡「ヨーテー節」にうたわれた風光明瞭な風景です

〈今号の表紙〉島育ちの私にとって、島うたの旋律はまるで打ち寄せる波のようであり、ゆっくり流れる雲のようでもあり、呼吸まで穏やかに整えてくれるものです。美しい砂浜に立つと、♪海の青さに〜空の青〜♪と、名曲「芭蕉布」を自然と口ずさみたくなります。撮影:仲程長治

 

沖縄のうたが持つ不思議なパワー

 沖縄では、子どもの頃から島うたに馴染む機会があります。私も小学校の授業で沖縄のうたを合唱しましょうと、「てぃんさぐの花」や「芭蕉布」をみんなで歌った記憶があります。私の2~3歳下の世代では、三線を習う授業もあったようです。
 また、結婚式などお祝いの席では、「かぎやで風節」というゆっくりとしたメロディの琉球古典音楽が冒頭に踊られます。私の母は琉球舞踊の経験者ではありませんが、2~3ヵ月かけて練習をして、甥っ子の結婚式で親戚のおばさんたちと優雅な舞を披露していました。
 島のうたには、不思議な力があります。沖縄では終戦直後に、米軍の収容所にいた人たちが空き缶で作った「カンカラ三線」で沖縄のうたを歌い、それが生きる力となって人々の希望を繋いだという逸話があります。
 未来が見えない時にも、うたを歌って心を奮い立たせた人々の希望が、今の沖縄を作ったのだと思っています。
 島うたのやさしい音色や歌詞と共に、うたに込められた島人の想いや背景までどうぞお楽しみください。

代表取締役 名護健 代表取締役 名護 健


 

島人に愛される島うた

自然の豊かさや、島人の心情を詠ったウチナーグチの歌詞、にぎやかに、そして時にもの哀しく響く三線のやさしい音色。 数多くある島うたの中から、島の人たちにこよなく愛されている名曲をご紹介します。

 

島人に愛される島うた

琉歌にもよく詠われるイジュの花。朝露を含んだ蕾は薫り立つよう

 

知らない島人はない座開きの祝いうた

 結婚式など祝宴の幕開けの際に奏でられる「かぎやで風節」は、かつて琉球国王の前で披露されていた古典音楽ですが、三線が奏でる優雅なメロディは、喜びを歌い踊るうたとして受け継がれ、今も暮らしの中に根づいています。
 その発祥と由来は、伊是名島の金丸(後の琉球の尚円王)を不遇の時代にかくまったやんばるの鍛冶屋が詠んだ喜びの歌であるという説や、「長者の大主」という長寿、富貴、子孫繁栄を備えた理想的人物が登場する村芝居が基になっている説など、諸説があります。

 


 

月ぬ美しゃ

月の光が海の上に道をつくる様が美しい、石垣島の白保海岸

 

うたと踊りの島、八重山を代表する民謡

 沖縄の中でも、ひときわ名曲の多い八重山で、「夜の子守唄」とも呼ばれる伝承歌が「月ぬ美しゃ」です。ゆったりとしたメロディラインからは、月明かりの下で体をゆらして赤ん坊を眠りに誘う風景と、母の深い愛情が伝わります。
 昔の離島では、若い娘が小 さな子どもの世話役をする守姉(もりあね)という風習があり、この歌には仕事歌としての側面もあります。満月になる前の月と、年若い娘をかけた歌詞からは、「これからが盛り」という希望に満ちた状態こそが美しいという、沖縄の人たちの美学が垣間みえるようです。

 


 

わらべうたの風景

覚えやすいメロディとシンプルな言葉の中に、昔懐かしい風景や、親から子への想いが込められたわらべうた。沖縄の幅広い世代に愛され続けている、誰でも知っている2曲をご紹介します。

 

てぃんさぐぬ花

昔は爪を染める染料として使われていたホウセンカ

 

じんじん

初夏の夕暮れ、清らかな水場に集まるホタルたち

 

♪うたでよく耳にするウチナーグチ(沖縄言葉)

ちゅら
美しい、清らかな、という意味。例:「美ら海」「ちゅらさん」。
ちむどんどん
「ちむ」は「肝(きも)」を表し、胸がドキドキするという意味。「ちむわさわさー」は「落ち着かない、ソワソワする」という意味。
じんとよー
「本当だよ」という意味。
涙そうそう
涙がポロポロと、とめどなく溢れてくる様子を表す。
やー、うんじゅ
どちらも「あなた」だが、「やー」は親しみがあり、「うんじゅ」は目上の人に使う言葉。
みやらび
「美童」の沖縄言葉。未婚の娘のこと。
テーゲー
適当、いいかげん。大きな視点で物事を捉える、南国らしい大らかな気質。

 


 

郷愁を誘う島うたの旋律

沖縄の「島うた」を聞くと、ウチナーンチュでなくても、どこか懐かしく感じられるのはなぜでしょうか。
いつの時代も島人の心を支えてきた島うたのパワーについて、島うた案内人の小浜司さんに伺いました。

 

島うた案内人・小浜司さんインタビュー

 

「ちむどんどん」する情緒豊かな島のリズム

 沖縄という島は、琉球王国 が薩摩侵攻によってヤマト世 (日本の統治)になり、敗戦でアメリカ世(米軍の統治)になって、復帰(沖縄返還)でまた日本になるという激動の歴史があって、ウチナーンチュはその中で「自分たちは何者なのか」と揺さぶられてきました。そんな背景の中で、島のうたはいつも人々の拠りどころとして心を支えてきました。
 島うたのリズムには、ウチナーのアイデンティティを呼び覚ます力があるんでしょうね。太鼓ひとつとっても、沖縄の叩き方は「踊らせるためのリズム」だから、腹の底から「ちむどんどん」します。
 僕は子どもの頃から当たり前に沖縄民謡を聞いてきましたが、その魅力に目覚めたのは大学を卒業して本土で季節工として働いていた時です。
 8畳部屋に2段ベッドの寮で、当時発売されたばかりのウォークマンで嘉手苅林昌さんと大城美佐子さんのナークニーを聞いた時に、「これは洋楽を聴いている場合じゃない、島のうたを聞き直さなければ」と、本気で思いました。
 そのうたは通称「芋堀りナークニー」と呼ばれていて、畑で芋を掘る娘に、通りがかった青年が声をかけるという何気ない場面をうたった即興歌なんですが、二人の掛け合いの呼吸や歌詞のセンスが絶妙で。唄声の向こうに、子どもの頃の風景がぱ〜っと浮かんできて、郷愁を感じました。
 沖縄の島うたは、今では県外でも聞かれるようになりましたけれど、まだまだ知られていない曲も多いですし、若いウチナーンチュも知らないでしょう。沖縄の人は、こんなに豊かな音楽文化の土壌があることに、もっと誇りを持っていいと思いますよ。

 

嘉手苅林昌(かでかるりんしょう)
1920年生まれ。19歳で軍雇用員として南洋諸島へ渡り、1949年に帰沖。島うたの神様と言われる、戦後の沖縄民謡の第一人者。

大城美佐子(おおしろみさこ)
1936年大阪市大正区生まれ。知名定男の父、知名定繁に弟子入りして民謡の道へ。1962年デビュー曲「片思い」が大ヒット。沖縄を代表する女性民謡歌手。

 

『島のうた』をひもとくキーワード

♪ とぅばらーま
八重山の抒情歌。男女の情愛や教訓などが独唱や掛け合いで歌われる。毎年、石垣島では秋の満月の夜に「とぅばらーま大会」が行われており、歌詞の創作や美声を競い合う。
♪ ユンタ
八重山の古代歌謡。祭りや新築など祝いの場で歌われたり、日常の作業労働の場でも歌われていた。歌詞には昔の島人の労働の苦しみや恋の喜びなどが込められている。
♪ 毛遊び(もーあしび)
かつて沖縄で広く行われていた慣習で、主に夕方から夜にかけて、若い男女が広場や浜辺に集って飲食を共にし、歌や踊りを介して交流したお見合いのような集会のこと。
♪ クイチャー
宮古島の民謡、舞踊。人々が歌い踊りながら輪になって手足を振り、声を合わせて祭りや雨乞いなどで披露される。地域、集落ごとに独自の踊りがある。
♪ ナークニー
漢字で「宮古根」と書き、宮古島にルーツを持つ歌とされるが、沖縄本島のやんばる地方でも歌われている。もともとは「毛遊び」などで歌われた即興の遊び歌であった。

 

小浜 司(コハマ ツカサ) 1959年、沖縄本島北部生まれ。大学を卒業して季節工をしながら東南アジアなどを放浪。1988年、家業のクリーニング屋に従事する傍ら、沖縄民謡のレコードをコレクションし、民謡歌手の大城美佐子のリサイタルを手がけたことをきっかけに、嘉手苅林昌など数多くのアーティストのアルバムやステージをプロデュースしている。

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島のうた

脈々2022春夏号表紙

琉球松の向こうの穏やかな海に島々が浮かぶ羽地内海。民謡「ヨーテー節」にうたわれた風光明瞭な風景です

〈今号の表紙〉島育ちの私にとって、島うたの旋律はまるで打ち寄せる波のようであり、ゆっくり流れる雲のようでもあり、呼吸まで穏やかに整えてくれるものです。美しい砂浜に立つと、♪海の青さに〜空の青〜♪と、名曲「芭蕉布」を自然と口ずさみたくなります。撮影:仲程長治

 

沖縄のうたが持つ不思議なパワー

 沖縄では、子どもの頃から島うたに馴染む機会があります。私も小学校の授業で沖縄のうたを合唱しましょうと、「てぃんさぐの花」や「芭蕉布」をみんなで歌った記憶があります。私の2~3歳下の世代では、三線を習う授業もあったようです。
 また、結婚式などお祝いの席では、「かぎやで風節」というゆっくりとしたメロディの琉球古典音楽が冒頭に踊られます。私の母は琉球舞踊の経験者ではありませんが、2~3ヵ月かけて練習をして、甥っ子の結婚式で親戚のおばさんたちと優雅な舞を披露していました。
 島のうたには、不思議な力があります。沖縄では終戦直後に、米軍の収容所にいた人たちが空き缶で作った「カンカラ三線」で沖縄のうたを歌い、それが生きる力となって人々の希望を繋いだという逸話があります。
 未来が見えない時にも、うたを歌って心を奮い立たせた人々の希望が、今の沖縄を作ったのだと思っています。
 島うたのやさしい音色や歌詞と共に、うたに込められた島人の想いや背景までどうぞお楽しみください。

代表取締役 名護健 代表取締役 名護 健

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